ひまわり Vol.6

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 助産師になって40数年たち、3000人強の子どもを取り上げてきました。分娩室で繰り広げられる風景は時代とともに少しずつ変わってきましたが、あの新生児の第一声が分娩室いっぱいに響き渡った瞬間の安堵感とお母さんの目にあふれる涙は変わりません。一番変わったと思えるのは、家族の立会い出産が増えたので(コロナ禍で面会や立ち合い出産が出来なくなったことが一番悲しいです)、夫の号泣する姿を見ることでしょうか・・・それはなんともほほえましく、若いスタッフがもらい泣きすることもたびたびです。私なんぞは、この年まで数々の場面にたちあって来ると少々のことではこの厚くなった頬に涙が伝わることも少なくなったのですが(ちょっと寂しい気もします)、私が今でもちょっと涙ぐみ「いいなあ」と思い、一番大好きな場面があります。それは、立会い出産が増えいろんな人たちが分娩室に入ってこられますが、いまでもそこに入って来られない(来ない)人が一人います。誰でしょう・・妊婦さんの実家のお父さんです。彼は分娩室の外の廊下で昔ながらにクマのようにうろうろするのです。そして産声を聞いてほっと安心し、スタッフに「どうぞ入られていいですよ」と言われても、まだ足を広げている娘の姿が見える分娩室に入ることはできず、ほんの10センチほどドアを開け、なんとも暖かいまなざしで「ようがんばったの!!」と一言だけ娘に声をかけ後は言葉にならず、すぐ閉めていきます。素敵でしょう?

 父親は、教育されないと父親になれないと言いますが、産むことも・乳を含ませることもできない男が父親になっていくには時間がかかります。子どもにとって最大の存在・一番大好きな人お母さんをひたすら愛することでしか二番目に大好きな人にはなりえないお父さんですが、あの暖かい眼差しと大きな(母と子を一緒に包み込む)包容力は、最大の魅力です。時代はいくら移り変わろうと、分娩室で号泣した新米パパも、20数年後同じように娘の労をそっとねぎらう素敵なパパになるに違いないと確信しています。お父さんばんざ~い

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